チタンフレームと聞いて、どんなイメージを持つでしょう?

軽さや耐久性に優れた素材として知られつつも、その実態は謎めいているんじゃないでしょうか。実際に乗っている人も少ないし、周囲でその使用感や魅力について話を聞く機会はほとんどないのでは。(少なくとも私はそうです)

そこで、チタンフレームの魅力を探るべく、長年チタンフレームの製造に携わってきたパナソニック サイクルテック社の中の方に、素材の特徴やギモンについてインタビューさせてもらいました。

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※取材させていただいたのは、画像の方ではないです(^^)

Q:メーカーが考えるベストのフレームってなんですか?

A:フレームを選ぶ際、素材の特徴や性能も確かに重要なんですが、それ以上に強調した いのは『フレームが自分の体にしっかりフィットしているかどうか』です。どんなに優れ た素材であっても、体に合わないフレームは性能を十分に引き出せず、快適さも大きく損なわれます。

一方で、体にぴったりマッチしたフレームであれば、どの素材を選んでも満足感の高い楽しいライドが実現します。フレーム選びでは、まずフィット感を重視することが大切で、自分に合ったフレームサイズを選ぶことが重要です。POSは460mmから630mmまで1cm刻みで選ぶことができます。これはPOSの基本理念でもありますね。

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Q:チタンフレームの快適性・ライディング特性ってなんでしょう?

A:チタンフレームの乗り心地は独特で、クロモリと比較するとその違いがすぐに実感できます。チタン特有の跳ね返りはクロモリよりも速く、振動吸収性に優れた快適さを保ちながら、スピード感のある走りを楽しめます。快適さと速さを両立しているのが、チタンならではの魅力ですね。

あと、チタンに限らないんですが、金属フレームに乗ると“ペダリングが上手になる”んですよ。

Q:金属フレームに乗るとペダリングが上手になるって、どういうこと?

A:ペダリング技術が自然と磨かれるんです。どういうことかというと、金属特有のしなりを活かして効率的に走るためには、フレームと息を合わせるように丁寧にペダルを踏む必要があって、結果的にペダリングが洗練されていきます。

一方で、カーボンフレームは雑なペダリングでもスピードが出せてしまうため、乗り手の技術を意識的に高める必要がさほどありません。上手なペダリングをマスターしたければ、金属フレームがオススメです。

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※こちらはクロモリです

Q:もう少し詳しく、チタンフレームの特徴について教えてください

A:鉄より軽量でありながら、鉄並みの強度を持つ点にあります。この特性のおかげで「鉄のように薄い肉厚」を維持しつつ、「鉄よりも太いチューブ」を作れます。結果、フレーム全体で高い強度としなやかさを両立できるのがチタンの魅力です。

特に、適切な設計によってチタンフレームは過剛性になることがなく、「小気味よく進む 」と表現される独特の乗り味を実現します。アルミやスチールと比較しても、チタンフレームは「弾力のある」乗り心地で、細かい話になりますが、しなった際の戻りが速く、 太いチューブ構造が可能なことに由来します。つまり、「太く&薄くできる」特性が、チ タンフレーム特有の乗り味を生み出しているのです。

「チタン特有のバネ感」と呼ばれる特徴は、単に素材そのものの性質によるものではなく、その特性を最大限に活かした設計にあります。薄肉大径のチューブ構造にすることで、 アルミやスチールでは得られない独特の振る舞いが生まれ、それがバネ感の強い、弾力のある走りを実現します。これこそが、チタンフレームの最大のメリットと言えると思いま す。

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※輝きが眩しい…

Q:チタンフレームにも種類があるんですか?

A:いくつか違いがあります。まず、フレームの硬さで分類される「H(硬い)」と「L( 柔らかい)」という分類。さらにパイプの構造にも「バテッド管」と「プレーン管」の2 種類があります。パナソニック サイクルテック社では、プレーン管とバテッド管の2種類のパイプを使っています。

バテッド管

パイプの肉厚が途中で変化する設計で、中央部分が薄くなっているのが特徴です。なので、軽量化にも効きます。乗り心地や加速性能に優れる一方、製造コストが高いため高価になります。

プレーン管

肉厚が均一で、衝撃に強く凹みにくい、肉厚0.9mmの均一のパイプです。衝撃に強く、凹みにくく、頑丈なので日常的に気兼ねなくガンガン乗りたい人におすすめです。塗装をしないポリッシュを選択するとキズを気にせず輪行できます。

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バテッド管はパナソニック サイクルテック社オリジナルの「3Dオプティマム・Xバテッド」といい、クロモリチューブでよくある、中央部分が薄くなっているダブルバテッドの両端の力のかかる部分にアウトバテッドをかましています。

両端から「0.9mm ~ 0.7mm ~ 0.5mm」と3段階の肉厚になっていて、しなやかな乗り心地、剛性の向上と軽量化を実現しています。このような手の込んだチタンパイプを使っているメーカーは他に存在しません。

ダウンチューブの太さを変えることによって、硬さを柔らかい「バージョンL」、硬い「バージョンH」と2種類から選べるようになっていて、さらにパイプの構成の見直しと、パイプの異形加工を施した軽量チタンフレームもあります。こちらはフレーム単体重量が550mmサイズで1230gになっています。つまり、パナソニック サイクルテック社のチタンフレームは4種類の硬さから選べるようになっています。

Q:チタンが高価な理由

A:チタンが高価である理由は、精錬プロセスにあります。チタンは酸化チタンの状態で 地殻中に豊富に存在する金属ですが、純度の高い素材を得るためのプロセスが非常に長く、複雑です。

酸化チタンを金属チタンに精錬する過程では、高温や特殊な装置が必要となり、多くの工程を経るため、製造コストが他の金属に比べて格段に高くなります。さらに、その後の加工や仕上げにも手間がかかるので、結果として製品価格が高くなります。

Q:チタンはメンテナンスフリーなのは本当ですか?

A:チタンフレームの魅力のひとつに、塗装しないポリッシュを選択すれば、手間いらず のメンテナンス性があります。錆びにくい金属なので、基本的にメンテナンスフリーで使用できます。錆びない=塗装、ワックス、コーティングも必要ありません。日常的な汚れ が気になった際に軽く拭き取る程度で、美しい状態を長く保つことができます。

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Q:チタンのメインユーザーは中高年ですか?

A:おっしゃるとおり、40~60代の中年以上のライダーが中心です。シンプルに経済的な余裕があるからだとは思いますが、軽さや快適性、そして長く使える耐久性を重視する傾向があり、チタンの特性がマッチしているのでしょう。

意外なことに女性ユーザーも少なくありません。チタンフレームの洗練されたデザインや 振動吸収性の良さが、女性ライダーにも高く評価されているようです。

Q:チタンフレームは、当然チタン100%なんですよね?

A:いえ、ほとんど弊社のチタンフレームは、純度100%のチタンではありません。かつては純チタンフレームも存在しましたが、非常に柔らかく、剛性が不足するので現在は製造されていません。

現在のチタンフレームは、微量のアルミニウムとバナジウムを加えた合金が主流です。こ の添加によってフレームの強度や剛性が大幅に向上し、快適さとパフォーマンスを両立で きる素材として仕上がっています。パナソニックのチタンフレームもすべてこのチタン合金を使用しています。

※補足情報
  • チタンは純度100%の状態では結晶構造が比較的柔らかく、衝撃や荷重への耐性が低い
  • アルミニウムとバナジウムを加えると、チタンの結晶構造に微細な歪みが生じ、金属の 内部での滑りや変形が抑制される
  • アルミニウムとバナジウムは、チタンの高温強度を高める効果もある(溶接や成形など の製造工程だけでなく、激しい負荷がかかる環境下でもフレームが形状を維持できる)

Q:パナソニック以外にチタンフレームメーカーはありますか?

A:日本国内でチタンフレームを製造しているメーカーは限られています。

いくつか挙げると、和歌山に工房を構えるKUALIS Cyclesさん。ハンドメイドで高品質なチタンフレー ムを製作しています。TOYOさん、Tigさんもチタンフレームを手掛けています。

チタンフレームの製造には高度な技術と時間が求められる一方で、製造コストが高く、利 益を上げるのが難しいため、多くのメーカーは手間のかかるチタンフレームには手を出さ ないのが現実ですね。

Q:チタンフレームがプロロードレースでほとんど使われないのはなぜでしょう?

A:いくつか理由があります。

1. 重量面での競争力不足

チタンは金属の中では軽量な部類ですが、カーボンフレームよりは重いのがまずひとつ。

2. 剛性の不足

プロレースではスプリントやクライミングなど、極限の力がかかる場面が多く、高剛性フレームが求められます。チタンはしなやかさと振動吸収性が優れている一方で、剛性ではカーボンに劣るため、全力疾走だとパワーロスします。

3. コストと製造の手間

製造コストが高く、手間がかかるため、大量生産には向きません。プロチームではスポンサー提供のフレームを使用するケースが多いですが、コスト面や生産性を考えると、スポンサー企業もチタンフレームを提供する選択肢を取りにくいのが現状です。

4. 設計の制約

チタンは加工が難しい素材で、カーボンのように自由度の高い形状を作りにくいです。空力性能を追求した複雑な形状が主流の現代ロードバイクでは、設計自由度が限られるチタンフレームは競技向きとは言えません。



以上、チタンフレームについて、パナソニック サイクルテック社さんに根掘り葉掘り取材させていただきました。ご協力、ありがとうございました!

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う~む、チタンフレームが欲しくなり始めてきたぞ…。
ディスクモデルのチタンフレームがエモい…!


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