2017年春に発表されたシマノのアルテグラ(R8000)を公道で見かける機会が増えてきた。自分の周囲でもR8000を使っている人は多く、「気にならない」と言ったら嘘になるが、自分はまだ前作の6800系アルテグラを使い続けている。

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その証拠に、何本かR8000関連の記事も書いている。

アルテグラR8000(新)と6800(旧)の各パーツごとの価格と重量を中心に比較してみた

アルテグラR8000のインプレ動画翻訳紹介

自分の6800系はもうすぐ丸5年になるし、どっかのタイミングでコンポーネントを載せ替えたいな~と思いつつも、あまりに快調すぎてタイミングを失し続けている状態。一時期はカンパニョーロかスラムもありかなーとか思いかけたのだが、シフトケーブル、ブレーキケーブルを1年~1年半周期で交換し続けている限り、ぜんぜん問題なく使えてしまう。

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現実的なタイミングとしては2019年春を検討してまして、娘の大学受験が無事終わって娘のロードバイクを購入するとき…かなと。(外した6800をお下がりにするのかどうかはわからないですが)

そのとき、R8000にするかどうかは迷いどころ。迷っているのはクオリティ云々ではない。旧アルテグラユーザーとしてR8000が良いものであるのは疑いようがなくって、単純に「せっかくだから別メーカー、もしくはR9100?いやいや、Di2にするか?」と逡巡している段階なのだ。

そんなときにcyclingtips.comで偶然目にしたのが、R8000アルテグラのロングタームレビュー記事。書いたのはDavid Rome さんというオーストラリア在住の男性ライター。なんと1年近く使ってみてのレビューとのことで、興味深く読ませていただいた。
※正確には11ヶ月

結構長かったが、とても有益だったので翻訳紹介してみた。R8000をご検討中の方々の参考になれば幸いである。

Shimano Ultegra R8000 mechanical groupset long-term review ※CyclingTips の元記事

目次


そもそもアルテグラの位置付けとは

ご存知の通り、シマノの最高峰コンポーネント、デュラエースの次にくるセカンドグレード。セカンドといってもプロのレースで使っても問題ない性能を有する。グランツールのようなビッグレースでも、バックアップ用のバイクにはアルテグラがあしらわれていることもあるくらい。ガチで走るアマチュア〜セミプロ選手だって、アルテグラを使うケースはふつうにある。

David Rome さんはテック系ライターにもかかわらず、Di2ではなく機械式のコンポーネント(&リムブレーキモデル)で11ヶ月もの月日を過ごした。

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/スリムでシャープなデザイン\

これまで、デュラエースは「プロ用マシン」、サードグレードの105を「普及版マシン」、そしてセカンドグレードのアルテグラは「大衆用パフォーマンスモデル」という位置付けだったが、はたしてR8000でもそのクオリティを維持できているのか?

以下、David Rome さんが11ヶ月間使い倒してみてのインプレッションである。

R8000アルテグラをざっくり説明すると…

製品のライフサイクルはおおよそ3年。その期間でバージョンアップしていて、最新版のR8000は2018年にリリースされた。その後、油圧式ディスクブレーキモデルも登場し、結果的に新型アルテグラ は4タイプのグループセットがある。

R8000 と R8020のブラケットフード形状はちょっと異なる。ディスクブレーキモデルもリムブレーキモデルも変速機器のメカニズムは同じだ。R8050 と R8070 は電動式(Di2)となり、こっちも 油圧式ディスクブレーキとリムブレーキの2種類がある。先に登場した新型デュラエース(R9100)のイノベーションと改善点がこのアルテグラにも反映されている。

ざっくり変更点は以下の通り。

  • シフターのエルゴノミックデザインは変更された
  • デュラエースよりもギアの選択肢が多い(11-34T のカセットが使える)※デュラエースは30Tまで
  • ブレーキキャリパーも改良
  • 前後のディレイラーデザインは大胆に変身

カセット(サイズの選択肢が増えたこと以外で)、ボトムブラケット、チェーンは6800系アルテグラからほぼ変更はない。

グループセット総重量でいうと、R8000は前モデルより39グラム重くなっている(ディレイラー、キャリパーブレーキ、シフターはそれぞれ重量アップし、アシンメトリーデザインのクランクセットがやや軽くなった)

選べるギアのレンジが広くなったのはデュラエースにないメリット。しかも、R8000 は6800のパーツとミックスして使えるのがポイント。あるいは、シマノの11速コンポーネントとならほぼほぼ問題なし。つまり、徐々にアップグレードしていくことも可能である。

なぜアルテグラはデュラエースよりもはるかに安いのか?

パット見の印象ではアルテグラもデュラエースもかなり似ている。初心者以下の娘なら、区別すらつかないかもしれない。それくらい似ている。

にもかかわらず、価格差は約2倍。

デュラエース( R9100 )がUS$2,219 / AU$2,590 なのに対し、アルテグラ( R8000 )US$1,094 / AU$1,499 。日本国内の価格でも同じく2倍の差がある。
※日本円でも両者間の価格差はざっくり2倍かそれ以上。

価格差は何かと業界関係者に問えば、「アルテグラのほうが安価な材料で作られており、よってやや重くなり、それが価格差となる」と答えるだろう。それは間違ってはいないが、それだけだろうか?

デュラエース( R9100 )と アルテグラ( R8000 )とアルテグラ(6800)の重量比較表はこちら

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※ 単位はグラム。クランク 長170mm, チェーンリング50-34T, カセット11-28T
※BBとケーブルは除いた

ざっくり、 デュラエース( R9100 )と アルテグラ( R8000 )間の重量差は300グラム。では、300グラムが2倍の価格差を正当化するのか?デュラエースは素材にチタン、マグネシウム、カーボンが使用され、アルテグラはアルミニウムとスチールでできている。

もうひとつ忘れてはいけないのが、細部の仕上げにかけている手間暇の差。ベアリング等の目に見えない可動パーツの精度もデュラエースのほうが高いし、耐久性もぐんと高い。

とはいえ、ホビーサイクリストが走らせる限り、両者の差を感じ取るのは難しい。繊細な感覚を持つ人であれば、デュラエースのほうが変速動作を軽く感じるだろうが、ほとんどの人はほぼ同じと感じるはずだ。デュラエースのベアリング、シルテックチェーンのコーティング、プーリーはスムーズな動きをするのは事実だが、ブラインドテストで差を感じ取れる人は少ないだろう。

ではデュラエースを買う必要性はないのか?走らせて差を感じられないのなら、デュラエースを買うメリットはなんなのか?

それは「耐久性」で、デュラエースの経年劣化の低さは特筆モノなのだ。「精度の高さ」と「頑丈さ」の2点でアルテグラは敵わない。

<中山コメント>
タイレル(Tyrell)のCSI で使っている9000系デュラエースは、2016年1月からの使用なので年末で丸3年になる。これが、まったくもって劣化を感じない。アウターケーブルは一度も交換しておらず、インナーのワイヤー(ブレーキもシフターも)だけ1回交換しただけ。変速の軽さと正確さ、ブレーキタッチの繊細さには舌を巻いたし、今も巻き続けている。

デュラエースの耐久性の高さについては、実業団やロード歴の長い先輩ローディが口を揃えて褒めるが、これには完全に同意。

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/9000系デュラエースです\

たしかに購入したての時点では、「いや、ゆうてもアルテグラもむっちゃ軽いし、正確に動作するやん?ほぼ遜色ないし」って思っていたが、時間経過によって明らかに差が現れた。

BOMA の Refale で使っているアルテグラ(6800※2014年1月購入)はもうすぐ丸5年なのでデュラエースとの比較はフェアではないが、ワイヤー類は定期的に交換しているせいで、とくに不満はない。…そう、不満はないのだが、デュラエースと比較すると、気のせいレベルでは片付けられないハッキリした差を指先で感じとれてしまうのは事実だ。

もちろん、アルテグラの耐久性が低いということではなく、デュラエースが特別にハイレベルなのだと理解してほしい。


…かなり前置きが長くなってしまって申し訳ない。ようやくR8000のインプレッションである。

アルテグラ( R8000 )で走ってみてのインプレッション

使ったのはコンパクトクランク(50-34T)、 11-34T のカセットでロングケージのリアディレイラー、リムブレーキモデル。それをグラベルロードに装着し、オンロード、オフロードで使った。

アルテグラ( R8000 ) のリアディレイラーとシフター

乗り始めてすぐわかるのは、デュラエースとほぼ似たフィーリングを味わえるという点。動作はスムースで安定しており、変速時の音も控えめ。

ブラケットカバーの形状は6800から大きくは変更されていないが、気に入った部分の1つ。手のひらを乗せる部分にパターンが入ったおかげでグリップ性能が向上している。ブレーキレバーへのリーチは短くなっており、調整幅も広い。シフトレバーは前作よりも大型化し、操作しやすくなっている。

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シマノによれば、レバーそのものの長さが短縮されており、それによって素早い変速性能を実現させているのだそうな。が、6800と見比べてもはっきりわかる差ではない。

ブレーキレバー形状の変化はすぐに気付くだろう。手の小さな人でも持ちやすく、かつ一本指でもブレーキがしやすく改善された。

デュラエースはショートケージのリアディレイラーしか提供しておらず、カセットサイズも30Tが最大。対してアルテグラ(R8000)の特徴は多様な目的とシーンにマッチすることで、コンパクト、セミコンパクト、レギュラーサイズのチェーンリングに加え、11-25Tから11-34Tまでの幅広いカセットの選択肢が用意されている。

カセットのローギア(大きいギア)が25~30Tまでであればショートケージのリアディレイラー、32Tか34Tであればロングケージタイプとなる。

アルテグラ(R8000)のリアディレイラー形状は大きく変わった。MTBでは一般的なシャドーデザインが採用されている。外側への出っ張りが少ないため、落車時に受けるダメージを最小化できるタイプだ。

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筆者によれば、変速時の指にかかるバネの圧は6800よりも高く、”ピシッピシッとクリック感があるフィーリング”とのこと。

チェーンのテンションは高くなっていて、それを感じやすかったのは未舗装路を走ったとき。悪路走行時でも暴れにくくなったし、音も立てなくなった。あと、チェーン落ちもしなかった。

ちなみに、R8000のリリース後、シマノは「RX」というリアディレイラーを追加投入してきた。これはシクロクロスやグラベル用途に適したもの。ラインナップが増えることはユーザーにはありがたいことだが、ではどういう人がRXを選ぶべきかというと悪路を積極的に走る人でない限り、あえて使う必要はない。少々のグラベル程度であれば、通常版のアルテグラ(R8000)で十分使える。
※価格はRXのほうがやや高く、ノーマルより38グラム重い

R8000のフロントディレイラーも大きな変更点があった場所

タイヤのクリアランスも増え、ケーブルテンションの調整がシンプルになっている。現時点の「フロントディレイラーのベンチマーク」と呼ぶに相応わしい質と出来栄え。

ただ、トリム機能は今回も備わっており、ギアを大きく変速させるときに操作する必要はある。操作は「フロント側のレバーを軽く押す」のは従来のまま。

※トリム機能とは? フロントディレーラーとチェーンが干渉して音鳴りしないように微調整する機能のこと。フロント(左)レバーで操作する。

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<中山コメント>
トリム機能の点においてのみ、筆者はトリム操作の必要のない「スラムのYaw derailleurのほうがベター」とコメントしていた。

シマノのホローテック構造(クランク一体型シャフトが中空になっている)のアルミ製クランクも素晴らしい完成度。剛性が高く、信頼でき、メンテナンス性も良い。

R8000は「選択肢が広がって良い」とは書いたが、まだ足りていないのはアドベンチャー系サブコンパクトなチェーンリング(例えば32/48T)。昨今のグラベル界では普通に必要なギアなので欲しいところだが、このサイズを用いたければ、サードパーティ製品に頼らねばならないのは残念である。

ただ、クランク長の選択肢はまずまずあるのはGOOD。ただし、通常以上のサイズを求めるならデュラエースを選ぶしかなくなる。

上記の細かな不満はまだ許せるが、唯一の問題点として「シフトケーブルの劣化(ほつれ)のしやすさ」が残る。やや太めの1.2mm ケーブルを使用するのだが、たとえばスラムだと1.1mmである。

<中山コメント>
これは知らなかった。ほかのコンポーネントと比較したことがないので「そうなの?」としか言えない。個人的にはシフトケーブルがほつれやすいと感じたことは1回もなく、不満点ですらなかった。


David Rome さんは11ヶ月間テストし、とくにシフトケーブルに目立った劣化は感じなかったとのこと。ただ、同じコンポーネントの別のバイクでそのような症状を目撃はしたと語っていた。

まあ、仮に12ヶ月ごとにシフトケーブルを交換をしたところで、コスト的にはたいしたことはない。もしそれが我慢ならないのなら、Di2という選択肢が残されている。

リムブレーキキャリパー

剛性感、滑らかな動き、制動力、どれをとっても業界内のベンチマークたる品質を誇る。デュラエースに比べればわずかに重く、ベアリングではなくブッシュが使われているが、性能面ではデュラエースと遜色ない。制動力もほぼほぼ同じと見てよい。
※ブレーキパッドはどちらも同じものを使っている

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デュアルピヴォットのキャリパーの造形も変化があった部分。より美しく(主観によりますが)、剛性も向上して、ブレーキレバーの操作感アップに繋がっている。

クイックリリース部分はレバーの可動域が増えており、それでもってワイドなタイヤ(28c)の出し入れが可能となった。ただし、インデックスではなくなったため、開けるか、閉めるかの二者択一ではある。

まとめ: 6800系ユーザーはR8000にアップグレードすべきか?

6800アルテグラは大成功した人気のコンポーネントだ。アルテグラ(R8000)はそこに積み増しした形なので、劇的な進化を遂げた……とまでは正直呼べない。だが、もともと素晴らしい6800をさらにリファインしているだけあって、ケチのつけようがない仕上がりを見せている。値段と性能のバランスからすれば、アルテグラはベンチマークであり続けている。

もし、今お持ちのコンポーネントがくたびれてきているとか、あるいは新車を買うというのなら、アルテグラ(R8000)は文句ないチョイスになるだろう。しかし、今6800系アルテグラユーザーで、とくに問題ないのであれば、焦って交換する必要はなさそうだ。

ただ、今持っているのが11速のコンポーネントで、ワイドなギアを使えるようにしたいのであれば、手始めにリアディレイラーとカセットだけ交換してしまうというのはアリだろう。

R8000の良いところ

  • 信頼の置けるパフォーマンス
  • 世代を超えてミックスできる対応力
  • コスパの高さ
  • 簡単に使えて、メンテナンスも楽

R8000の良くないところ

  • シフトケーブルが内側でやや擦れるかんじ
  • 古いバイクには似合わない?
  • ボトムブラケットのオプションが限定的

※注意点※ 海外のレビューなので、細かな仕様面で日本と完全に同じかどうかはわからないです(^_^;)


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