ロードレースの世界って、かなり男臭い世界。選手とスタッフは男性だらけだし、取材班もこれまで見てきた限りでは圧倒的に男中心。
※女子レースを除く メカニックさんについて言えば、これまで男性しかお目にかかったことがない。

かなりいろんなサイクルショップに出切りしてきたけど、女性メカニックさんは一人もお会いした記憶が無い。女性スタッフだっていてもいいとは思うのだが、少なくとも今の自転車界はそうなってはいないようだ。

女性メカニックとスタッフがお店にいれば、油臭いピットも華やかになり、お客さんも居心地がいいだろうに…と感じていた最中、cyclingtips のサイトで「女性メカニックを取り上げる記事」を読んだ。

Meet the only female mechanic on the pro road tour


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男性社会に溶け込むためにきっと地道な努力を積んだに違いないそのメカニックさんのお話しが面白かったので、翻訳してご紹介する。

彼女の名前はアンドレア・スミス。プロロードレース界でのただ一人の女性メカニックだ。所属チームはColavita Pro Cycling Team である。

コラヴィータ(Colavita)はアメリカ内の女性トッププロチーム。スポンサーのColavitaはイタリアのパスタとオリーブオイルメーカーで、女性サイクリングチームのサポートを長期間続けている会社で、何名ものオリンピック選手や代表選手を育てている。

2008年のリーマン・ショックではチーム存続の危機が訪れた。Colavita とチームオーナーは男子チームと女子チームがある中で、金銭的にどちらかを解体せねばならなくなり、結果的に女子チームを残した…という過去がある。 チームオーナーのProfaci さんは、

2008年のリーマン・ショックでは、予算カットのためにタフな決断を迫られました。男子チームを解散し、女性チームを残したわけですが、かなりの批判を浴びせられました。世間の注目がより大きいのは男子チームで、それを手放したことで失われたものは大きいです。

しかし、女性チームを残したことは正しい判断だったと思っています。スポンサーのColavita は食料品・生活雑貨・日用品等を扱っており、そういった買い物をするのは9割女性です。ですので、スポンサー的には正しいセグメントにマッチさせているのです。

ビジネス面での話とは別に、Profaci さんはメリットも感じているそうで、

2003年から男性、女性のプロロードチームを運営してきた経験から言わせてもらうと、女性チームのほうがおもしろいんだ。

女子スポーツにかけられる予算は男子のそれより低いけど、そのせいもあって女性は他に職業を持っていることが多い。しかも、わがチームの選手には医者や博士も在籍している。プロ意識の高い女性選手らの情熱をサポートできてうれしく思っているよ。

2014年、女性チームの運営だけでは飽き足らなくなったProfaci さんは、チームスタッフ全員まで女性のみにしてしまった。マネジャーは元選手だった女性が、マッサーもメカニックも全員が女性。先述のアンドレア・スミスさんはチーフ・メカニックとしてColavita に加わった。

ただ女性であればよかったというわけではもちろんない。私が集めたのは腕の確かなスタッフばかり。人材確保にはけっこう努力したつもりだ。女性であるというだけでプロロードレースの世界で働けない人は多い。そういう人たちに機会を作りたかった。

チームに帯同して、国中を駆け回ることのできる女性メカニックは多くない。採用まではけっこうな苦労の連続だったそうだ。

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※Colativaの面々

チームディレクターのメアリーさんは、「オーナー(Profaci )から”女性スタッフだけのチームにするんだ”って聞かされたときは素敵なアイデアだと思ったけど、実現するのは簡単じゃないってすぐに思ったわ。女性メカニックはさすがに無理かもしれないって心配したの。どこのチームにも女性メカニックなんていなかったしね」 と振り返る。

しかし、メアリーさんは、マサチューセッツ州の自転車ショップでメカニックとして働いていたアンドレア・スミスさんを発見する。アンドレアさんは元シクロクロス選手で5年間ほど第一線で戦ってきたそうで、メアリーさんと一緒のレースを走ったこともある。ちなみに彼女は2004年からずっとメカニックを務めていた。

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以下、アンドレアさんのコメント。

高校と大学時代は陸上の選手だったの。それからマウンテンバイクをトレーニングの一環として始めたのが自転車に出会った経験よ。自分で当時マウンテンバイクを買ったんだけど、死ぬほど高価で驚いたわ。

まあ、せっかく大金を払ったわけだし、だったら自分でメンテナンスできるようになったほうがいいわねって思っていじりだしたのよ。まさかそれが仕事になるなんてね(笑)。

アスレチックトレーナーを目指していたアンドレアさんは、その道を絶って「メカニックになる道」を選択する。それ以降、彼女は大半の時間を、ただ一人の女性メカニックとして過ごすことになる。

前の職場ではバイクをいじる女性スタッフは私しかいなかったけど、他の社員は私の性別を気にすることなくフェアに扱ってくれて感謝しているわ。 
お客さんが電話してきて、”メカニックさんと話したいんですけど”と言われて私が電話に出ると驚かれるわ。お客さんが持つ心理的な壁を壊す必要はあるわね。

別にメカニックが女性であることで誰も不利益を被ることはないんだけど、6年間の勤務期間で一人だけ”女にオレのバイクを触らせたくない”って断られたことがあったくらい。6年で1回だけだから、さほど問題ではないわ(笑)。
Colavita に加入したとき、スタッフ全員に歓迎してもらった。みんなフレンドリーでうれしかった。だって、何週間もずっといっしょに移動したり、過ごすメンバーだから。

でも、さすがにはじめのうちはナーバスになっていたの。女性であるということで、男性の10倍は努力しなくちゃって自分を追い込んでいたせいもあるわね。女性であることで、メカニックとしての腕を不安視させたくなかったから。
べつにスタッフからそんなプレッシャーは受けてはいなくて、自分で勝手に”パーフェクトでなければ!”って思っていたフシはあるわね。「女だけど、大丈夫かなあ?」って少しでも感じさせたくなかったの。

でも、それは杞憂だったわ。私と私の仕事を信頼してくれたし、私が整備したバイクを誰もダブルチェックしようなんて素振りもみせなかった。2年間、このチームの一員になれていることに感謝しているわ。

メアリーさんもアンドレアさんの仕事には満足しているようで、「アンドレアの気配りの届いた仕事っぷりには感心しているわ。私がこれまで一緒に仕事したメカニックの中で最高の人材よ」とのこと。

アンドレアさんもかつて選手だったので、「選手が自分の機材に自信を持って、競技に集中できることが大事」ということをわかっており、選手が機材に関して気にする細かな点に気付くことができる。。

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女性メカニックを増やすには

アンドレアさんは、もっと多くの女性が自転車メカニックを目指して欲しいと願ってはいるものの、「(男性社会ならではの)壁を破ることがカギになる」と語る。壁を破るには、女性らがもっと自転車を経験することが重要だと考えているそうな。

大半の女性って、自転車屋さんに入ることを怖がっているのよ。男性は高校を卒業するくらいから自転車屋で働くことを始める。それはずっと自転車に乗っているから親しみがあるのよね。でも、女性は高校卒業と同時に自転車に乗ることをやめてしまう。女性が成人してからも自転車に興味を持ってもらえるような働きかけが必要だと思う。

と、アンドレアさんは語る。

アンドレアさんが自転車メカニックを職業にする理由

人と関わることのできる仕事である。 自分の手で人の問題を解決することができる。 生涯楽しめるアウトドアスポーツ(レクリエーション)の素晴らしさを伝導できる

スタッフ全員が女性であることの効果

アンドレアさんによれば、「能力的な差は一切ない。ロードレース界で働くことにおいて性別は無関係。ただ、男性社会であるからこそ、私たちはユニークな存在だと受け止めてもらっているわ」とのこと。 オーナーのProfaci さんはさらに、こう付け加える。

男性と女性が混じっているチームが劣っているとか、問題があるって意味ではもちろんないわよ。ただ、ひとつ言えることは女性チームを女性スタッフで支えることで、チームの絆は強くなっているわね。

この記事を読むまでは、自分もなんとなく「ロードレースは男性世界」って刷り込みがあったけど、女性だけで運営されるチームがいてもぜんぜんありだなって思った。 選手が女性であれば、(精神的&肉体的な)相談や悩みに乗るにも同性のほうが話しやすいだろうし、マッサーは女性でないと成り立たない。女性だけのスタッフってなかなかおもしろいと思う。