ちょっと前に「2016年のシクロクロス世界選手権で発覚した『メカニカルドーピング』とは何なのか?」という記事を書いた。
2016年のシクロクロス世界選手権で、シートポストに仕込んだ隠しモーターが発覚して、自転車レース界に激震が走った件についてである。
日本国内には、「自転車世界選手権で初「メカニカルドーピング」発覚。フレームに隠しモーター、選手は故意を否定も罰金2400万円の可能性」とか、「クックソンUCI会長がメカニカルドーピング問題を非難 「隠すことはできない」と強調」という事件発覚のニュースはある。
しかし、その後の続報はとくに見当たらないし、そもそもメカニカルドーピングがいったいどういうメカニズムでおこなわれたのかを解説する記事もないっぽい。
そこで、海外のサイクル系ニュースサイトを巡って、関連記事を探してきた。
今回は、「Bicycling.com」というサイトの「メカニカルドーピングは実際にどういうものなのか?(How Does Mechanical Doping Work?)」という記事がじつに興味深く、知らなかった情報を知れたので、翻訳&紹介してみる。
ちなみにこのサイトの運営母体は、Rodale Inc というニューヨークとペンシルバニアに拠点のある会社で、ヘルスケア関連をメイン業としているそうだ。
メカニカルドーピングのウワサは2010年頃からあった
フェムケ・ヴァンデンドリーシュ選手は、メカニカルドーピングの容疑をかけられた自転車選手になってしまった。容疑をかけられたのは、シクロクロス世界選手権2016年の場において、だ。
ただ、メカニカルドーピングは今になって始まったことではなく、ウワサは2010年頃から取り沙汰されてきた。
2010年3月、ファビアン・カンチェラーラがツール・ド・フランダースでものすごいロングスパートをかけて、トム・ボーネンを置き去りにして勝った。
同じ年の4月、ロンド・ファン・フラーンデレンでも、ラスト40キロ地点直前でトム・ボーネンとともに抜けだし一騎打ち状態となったが、カペルミュールの上りで20秒近い差を付けて独走し、そのまま優勝。
その翌週のパリ~ルーベでも絶好調状態を維持し、2位に2分以上の大差を付けての圧勝した。カンチェラーラのあまりの強さに、電動アシスト疑惑騒動が発生したのは割りと有名な話。 ※引用元はウィキペディア
メカニカルドーピングとはそもそもどういう行為なのか?どうやっているのか?
電気じかけの自転車は、新しい概念ではない。通常は、大きなバッテリーやモーターがフレームに取り付けられている。フレーム内に閉じ込める方式のメカとしては、Vivax Assist というドイツメーカーの製品がわりと知られている。シートチューブ内に収まるサイズであるにもかかわらず、レースで勝ててしまうほどのパワーを生むのだ。
Vivax Assist のシステムをフレームに装着するのは、じつはけっこうな技術を要するそうで、ボトムブラケットスピンドルがノッチのついたギアにぴったりと噛みあわせねばならない。
シートチューブに差し込まれたシリンダー状のモーターは、BBリングに垂直に噛むように取り付けられる。シートチューブに対して並行に穴を開け、ピンで固定することで、モーターだけがシートチューブ内で空転しないようにする。作業後は、穴はパッチでしっかりと塞いで隠す。
モーターのオン・オフはバーテープに隠したリモートボタンで
ノーマルのVivax Assist システムでは、電池はボトルケージに挿すか、サドルバッグ部分に吊るす。が、これではどうやったって目についてしまうので、フレーム内に小型電池を隠すわけだ。持ち時間は少なくなるが、その代わりバレにくくなる。
Vivax Assist はシートチューブ内に完全に内装できる。ノーマルモデルは電池を外に装着するが、特別モデルは電池もモーターもすべて内装にできてしまうのだ。
「重さとトレードオフになるのでは?」という疑問
まず、フレーム内に隠せる小型電池では、いわゆるロードレースの全行程で使うことはできない。そこまで持たないからだ。
しかし、シクロクロスとなると話は変わる。なぜなら、シクロクロスレースの競技時間は短い。エリート男性でもせいぜい1時間。エリート女性なら45分だ。
ここぞという急坂でアタックをかけるときや、ライバルを突き放したいポイントでのみアシストを発動させれば、シクロクロスレースなら充分に活躍できてしまう。しかも、モーター音はかなり静かだそうで、観客の歓声や走行音でかき消されてしまうそうな。
Vivax社によれば、「200ワットのパワーを生む」とのことだ。しかし、クランクシフト内の伝達パワーロスを考慮すると、実際にホイールに伝わるパワーは40~100ワットである。(その時のケイデンスにもよるので、幅は広い)
なお、電池の持ち時間は40~100分ほど。遅いケイデンスであればあるほど、大きなパワーを生む仕組みである。RPMが75~90になると、ライダーの力のみで走れると判断され、パワーは急激に低下する。
モーターや出力はカスタマイズが可能
ここまで書いた内容は市場に流通する商品の性能であって、じつはカスタマイズされたものもあるそうだ。そうなると、高いケイデンスでもパワーを発揮させたり、20~30ワットという微力を長時間にわたって発揮させることもできてしまう。
つまり、シクロクロスだけでなく、ヒルクライムステージなどにも投入するメリットが生じるわけだ。
長年にわたって、「かつて、ロードレースの世界で電動モーターを使った選手はいるのか?」という疑念はくすぶり続けていた。今回、2016シクロクロス世界選手権で事件が明らかになるまでは、うわさ話でしかなかったことが現実味を帯び始めている。
選手本人は容疑を否定
フェムケ・ヴァンデンドリーシュ選手(ベルギー)とその父親は、「偶然にバイクが混じってしまった事故であり、意図的に仕組んだことではない」と容疑を否定。友人のモーター付きバイクが何かの弾みでピット内に紛れこんでしまったと釈明している。
なお、フェムケ・ヴァンデンドリーシュ選手は件のドーピングバイクには乗っておらず、そのバイクはU23女子レースのファーストラップ時点で没収されている。
もしこれが意図的な工作ではなく、事故だったとしても潔白を主張するのはちょっと無理がある。なぜなら、バイクはチームモデルのデザインが施されていたから。
さらに、もしそのバイクがフェムケ・ヴァンデンドリーシュ選手の体形にフィットされていたり、IDナンバーが一致したとしたら、彼らのアリバイはまず通用しない。
メカニカルドーピングは、どの程度の処罰が適当なのか?
UCIはこれまで、扱いの難しい機材(大掛かりなX線マシン)や方法(BB部分の解体作業)でもって捜査にあたってきた。しかし、現在はポータブルな機材で同様の捜査が行える。
UCIの捜査は散発的で、批判の対象にもなっていた。なぜなら、2015年のツール・ド・フランスでは、捜査されたバイクは全体のわずか1%にしか満たなかったからだ。さすがにそれは少なすぎるし、不公平感もある。
たとえばコンタドールがステージレースの途中でバイクを交換したとき、UCIはモーター捜査を行ったが、なにも発見されなかった。「UCIの行為は無意味で、レースの邪魔をしているだけ」という批判があったのも事実。
今回の事件を受け、UCIは恐らくロードレース界の捜査の手を強めるはずだ。メカニカルドーピングの罪は重いし、厳重な処罰に値する。最低6ヶ月間の出場停止が課されるが、それは処分として軽すぎるという声も少なくない。
さらに、こういったイカサマ行為は選手単独でできるものではなく、まず間違いなく組織ぐるみで行われるので、チームへのペナルティも避けられない。永久出場停止処分が課されても文句が言えないレベル。
将来のことは誰にもわからないが、ひとつだけ確かなことは、「新たなドーピングの手法が確立してしまった」ということだ。それが、ちょっと悲しい。
以上、「メカニカルドーピングは実際にどういうものなのか?(How Does Mechanical Doping Work?)」の翻訳紹介でした。 ※なお、上記リンク先に動画などはなく、テキストメインの記事です。
こういう行為に手を染めるアスリートがいるのが信じられないと思う反面、勝つこと(結果)でしか評価されないプロスポーツ選手ならではの、自分のような下々の人間には想像もできない苦悩があるのだろうなとも思いを馳せてみたり。
とは言え、「じゃあ、許す」という気持ちにはなり得ない。
続報を見つけたら、お知らせしますね。

コメント
コメント一覧 (2)
日本ではまだまだ馴染みの薄いロードレースですが、欧州とかでは別格扱いだし、ヒーローですからね。
その分、チームにも選手にも、かかる重圧と言うのは計り知れないものがあるのでしょう。
とは言え、薬物ドーピングもメカニカルドーピングもやって良いわけでは無いのですが(・_・;
「自転車は本来楽しいものです」
とは弱ペダの監督さんのセリフですが(笑)、競技になり大会になり、そこに多額のお金や名誉なんかが入ってくると、こういう事になってしまうんですね。
ただの遊びで乗っている一般人とは、自転車とのつきあい方も根本的に違うので、わかるっていえば分かる気もしますが、でもやってほしくはないですね。
(^^)