2016年のシクロクロス世界選手権(U23女子レース)で、出場選手のバイクに電動モーターが取り付けられていた、いわゆる「メカニカルドーピング」が発覚した。

「メカニカルドーピングってなに?」という方のためにざっくり説明すると、「ロードバイクのシートチューブに内蔵される電動モーター」のことである。そのモーターがBBにつながり、ペダリングに合わせて電動アシストしてくれる…という仕組み。


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もちろん、完全なイカサマ行為である。


疑惑の渦中にいるフェムケ・ファンデンドリーシュ選手(ベルギー)は「使っていない」と潔白を主張しているのだが、事実はまだ明らかにされていないし、UCIもどんな結論を下すのかはわかっていない。


少なくとも、UCIのクックソン会長はメカニカルドーピング問題を非難しているし、エディ・メルクス氏にいたっては、「永久に出場停止にするべき」と鼻息が荒い。


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それに加え、どちらかというと、世論も「厳罰に対処せよ」の方向のようだ。


日本国内の情報は上記のテキストリンクくらいしかないので、海外動画ニュースをさがしたら、Global Cycling Networkが現地レポートしていらっしゃった。GCNの発信力と取材力には、ほとほと感心させられる。


What Is 'Mechanical Doping'?


ということで、メカニカルドーピングについて、動画からわかることを翻訳してお届けする。


発見されたモーターは、ふつうに市販されているモノ

モーターそのものは、誰でも購入できるものだそうだ。モーターが発する回転力が、接続されたBBに伝わり、パワーに変換される。

メルクス氏は、「メカニカルドーピングは薬物のドーピングだ。場合によっては50ワット、いや100ワットですら出力を上げられる可能性がある。それはもうサイクリングではなく、モーターサイクリングだ」と語っているが、GCNによると、最高で200ワット(!)も出力できてしまう。


200ワットはものすごく大きなパワーだ。動画では、「一般人のサイクリストが、クリス・フルームに戦いを挑めてしまうレベルのパワーだ」と語っていた。つまり、ずば抜けたアシスト力なのだ。


ペダリングを止めると、モーターも作動を中止する

おそらく、ブレーキレバーにスイッチが隠されており、それを操作することでモーターを再始動させることができる。坂などでスイッチオンにすれば、ドカンとパワーが発生してくれる仕組みだ。


UCIはどのようにモーターを発見したか?

バイクを分解したり、シートポストを抜いたりはしていない。発覚した原因は、UCIのアプリのおかげ。スマホもしくはタブレットで外側からスキャンして、発見したとのこと。


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それまでは、いちいち分解してチェックする必要があったのが、UCIも不正発見のために技術投資を行い、今ではカンタンにたくさんのバイクを検査できる仕組みを作り上げた。


単独犯ではなく、組織犯罪であろう(という読み)

シートチューブ内にモーターを入れて戦うなどということは、選手だけの単独犯罪ではないはずで、チームや組織一体で行っていた可能性が高い。そのあたりは、今後の捜査と調査で明らかになっていくだろう。


仮に「クロ」となった場合、どのようなペナルティが待っているのだろう?


選手は最低でも6カ月以上の出場停止。最大20万スイスフラン(約2400万円)の罰金。またチームには6カ月以上の出場停止と最大100万スイスフラン(約1億2000万円)の罰金だ。


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動画内の(向かって)右側で話しているサイモンさん(若い方)は、「6ヶ月の出場停止はペナルティとして軽すぎる。選手もスタップも全員が生涯出場停止処分を受けるべき。それくらいに悪質な行為だ」と強い口調で話していた。


なお、メカニカルドーピングがどれくらいすごいものなのかを知りたい方は、おなじくGlobal Cycling Networkの下の動画をご覧ください。


The Col De La Madone (コル・デ・ラ・マドン)という、フランスのニース郊外にある峠で、ツール・ド・フランスの舞台にもなっている場所。



この峠を、「電動アシスト付き自転車で登ったら、どれくらい速く走れるか」という実験なんだけど、参考情報として、ランスアームストロングは「30分45秒」、クリス・フルームは「30分9秒」という記録を持っている。


で、ここをGCN解説者のダン・ロイドさん(元プロ選手)が走ってみたら、30分23秒という記録を叩きだしてしまった。しかも、ロードバイクではなく、フラットバーのクロスバイクで、である。クリス・フルームには及ばなかったが、ランスアームストロングには勝ってしまった。


元プロとはいえ、すでに引退した選手が、である。


ここで使っているモーターと、シクロクロス選手権で使われたモノは同じではないが、電動アシストのチートっぷりが垣間見える。


個人的には、プロレースの世界(誰が勝ったとか負けたとか)にはあまり興味はないんだけど、このニュースには衝撃を受けた。こんなことをしてまで勝利して、いったいなにが嬉しいのだろうか。アスリートとして、越えてはならない一線をはるかに越えてしまっている。


続報があれば、追ってお知らせしますね。