三船雅彦さんがパリ~ブレスト~パリを振り返るトークショーが、Rapha Cycle Club Tokyo で開催されたので取材させていただいた。



今回はその続き。

>>その1はこちら



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※CCTYOでしか飲めないドリンクもあるんです



パリ~ブレスト~パリは、1,200キロというありえない距離を走る。パリからブレストに向かい、ブレストで折り返して同じ道を走ってパリに戻る。折り返し地点では小休止と補給を行うのだが、その時間はわずか4〜5分(!)しかない。そんなの、もはや休憩とは呼べない……。



もちろん、上位を狙わない大半の選手は一分一秒を争ったりはせず、横になって仮眠したり、ゆっくり食事をしたりする。



が、三船さんを含む上位を狙う強者らはこんな場所でも時間短縮を第一に考えているし、虎視眈々とライバルの様子(疲労具合や今後の展開の読み合い)を伺っている。心理戦と駆け引きは常に行われているのだ。


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※三船さんのマシン、リドレーヘリウムSL



パリ~ブレスト~パリはレースではないので、勝者はいない。



しかし雰囲気は確実にレースのそれで、とくに開催地フランス人の「勝ちたい」、「勝たねば」という意地とプライドはハンパなく強烈らしい。



選手同士のナショナリズムは、(ときに国籍よりもチームオーダーが優先される)世界選手権よりもくっきりと現れる。そういう意味で、パリ~ブレスト~パリは純粋で正直な気持ちがぶつかりあう場所だといえる。



まさに、ロードレースの原点と呼んでもいいかもしれない。



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※苦悶の表情を浮かべて走る三船さん




さて、先頭集団のレース展開はこんなかんじで進む。

  • 1.残り700キロで一人がアタックをかける。※残り700キロという表現が、現実離れしすぎて笑うしかないが……

  • 2.先頭集団は逃げを容認する ※だって、700キロよ?それも一人のアタック。「そのうちバテる」と思われていた

  • 3.折り返し地点(ブレスト)に先頭集団が着いたとき、逃げていた選手はちょうど出発するところだった ※集団はそれを見て、「まだ大丈夫、捕まえられる」という雰囲気だった

  • 4.逃げている選手にはサポートカーがおらず、すべて自分一人で用意していた。「もしや、ソロ出場か?」と気づかれる

  • 5.周囲が急にざわつきだし、「あの選手は誰だ?国籍は何だ?」とネットで調べ始める ※ソロで出場しているのに強すぎる、有名選手かも?という焦り

  • 6.結果、レースアクロスアメリカという長距離ロードレースで2位になったスゴイ選手であると判明

  • 7.誰かが「ドイツ人で登録されてる!」と突き止める。しかし、他の誰かが「違う、スロベニア人だ!」と主張し、情報が錯綜する

  • 8.真相は、彼はスロベニア人であった ※「ドイツ人だと偽装することで、ライバルらに気づかれないようにしたんだ、ズルい!」などと周囲がさらにざわつく


※国籍を意図的に伏せていたかどうかの事の真意は定かではない。勝手な言い分かもしれないことを補足しておく


※ちなみに、スロベニアという国は持久力系の競技がめっぽう強い。学校教育~軍隊など、幅広く持久力を鍛える教育をしているので、国家として持久競技が得意とのこと


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※短時間の休憩時間でもシューズを脱いでマッサージ


先頭集団にいた三船さんは、当然ながら逃げの選手をいっしょに追っていた。そこにいる一団の選手同士は、協調体制とって先頭交代をすることになるのだが、ここでも選手同士は一枚岩ではなく、さまざまな思惑が錯綜する。



ベルギー人とフランス人はいがみ合う。それでも逃げに追いつきたい思惑は一致するので、なんとかローテーションはしていた。で、途中で三船さんにも「お前も牽け」と外国人選手が声をかけてくる。



しかし、あまりにも巡航速度が速すぎ(時速40キロ)て、「牽いてしまうとこっちが消耗させられてしまう」と考えた三船さんは、外国語がわからない振りを見せ、日本語で話し返した。



外国語は堪能な三船さんの作戦である。いくらしゃべりかけても日本語でしか返事をしない選手に対し、周囲はとうとうコミュニケーションを諦め、結局三船さんは先頭で牽くこと無く走った。


なお、三船さんの名誉のために付け加えると、三船さんは「(英語やフランス語を)しゃべれない」とは言っていない。つまり、ウソはついていないのだ。三船さんの駆け引きの勝ちである。



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ちょっと脱線するけど、三船さんは走りながら「寝落ち」している。集団について走っているのに、ふと気づくとペダリングしておらず、集団が20メートル先に行ってしまっている。あわてて漕いで追いつく…を何度も繰り返した。



1回だけ完全に値落ちした瞬間があって、脇道にバイクが突っ込んでしまった。間一髪でクリートを外し、落車せずに済んだが、「一歩間違っていたら、大けがしていた。あれは危なかった」とのこと。



で、最終的にレース展開がどうなったかというと、逃げていたスロベニア人選手が1位でゴールする。なんと、700キロの逃げを決めてしまったのだ。結局、先頭集団は彼を捕まえ切れなかった。つまり、今回もフランスは自国選手が勝者になれなかった。




まだまだ面白いお話を聞けたので、続きは次回書きます!

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