最近、ドはまりしているマンガを紹介したい。(ロードバイク系ではない)


自転車がテーマではなく、出版社(マンガ雑誌)の世界を描いた作品だ。タイトルは「重版出来! 」。「じゅうはんしゅったい」と読む。出来は「デキ」ではない。




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ロードバイクのマンガでは「じこまん」や「のりりん」は大好きな作品なんだが、「重版出来!」も同じくらい大好きになってしまった。


マンガ家がどんなプレッシャーと闘い、ネームの産みの苦しみを味わい、それもで命を削って作品を仕上げ、編集者や出版社が一丸となって連載化、単行本化につなげていくのか。



ポップな絵柄で読みやすいが、中身は真面目だし、それぞれの役割の中で懸命に働く大人たちが、主人公の黒澤心(女性新入社員)を中心にしっかりと描かれている。



話題になっている作品なので、すでに読んでいらっしゃる方もいるだろう。




帯のメッセージも実に良い。

仕事しか、世界は変えられない。全ての仕事人に捧ぐ、胸熱ドラマ!!

日本経済新聞「仕事マンガランキング」第1位なのもナットクだ。




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重版出来!にはまってしまったのには個人的な理由があって、僭越ながら、オレサマも昨年に生まれて初めて自分の書籍を出版できたのね。



ウェブ媒体で書いていた「娘と父のマジトーク お父さんがキモい理由を説明するね」という連載記事が、ある出版社の社長さんの目に留まり、書籍化のお誘いをいただいたのがキッカケである。




Kimoihon


書籍化が決まってから、章立てをし、描きおろしコンテンツに着手し、取材をし、執筆し、編集作業を出版社と重ね、何度もアカ入れをし、挿絵のイラストデザインを詰め、表紙デザインを議論し・・・といった一連の作業をその出版社と重ねた。


本業の会社員としての仕事と二足のわらじだったので、執筆はもっぱら早朝と深夜。5時に起きて通勤途中のマクドナルドでしこしこ書いた。週末はほぼすべて原稿のために費やした。そんなタイトな生活が三ヶ月間続いた。



産みの苦しみを味わえたおかげで、重版出来!という作品を、著者&出版社(中の人)側の視線で楽しむことができたわけである。



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※あれでもない、これでもないと議論して決めた表紙案



2013年の年末から翌年3月末までは、びっちりとそんな生活が続いた。運動もせず、ロードバイクにもほとんど乗れなかったため、6キロほど太ってしまったのもいい思い出である。(その後、懸命に運動して元に戻したが)


発売は忘れもしない4月17日だった。初版は4000部だったため、アマゾンと首都圏の主要書店のみの展開。書店に自分の作品が並ぶってのが、どうにも実感がわかなくって、雲をつかむようなフワフワした気持ちだった。



お父さんがキモい理由を説明するね




で、恥ずかしい話なんだけど、発売後に書店に行くのが怖くなってしまって、行くのを躊躇してた。



だって、置いてなかったら凹むじゃん。置いてあったとしても、無名作家の作品だし仕入れ数は少ないだろうから、奥まった棚にひっそりと1冊だけ差し込まれているのが関の山だろうってタカをくくってたの。そんなの目撃したらさみしい。要はチキンだったのだ。


しかし、いつまでも逃げていちゃダメだ。発売から2週間後のある朝、意を決して恐る恐る職場の最寄りの書店に入った。入店してすぐのいわゆる一等地は、話題の新刊とかランキング上位の人気書籍がずらっと並ぶ場所だ。



そんな場所にオレごときの名もない作家の作品が置かれるわけないし、でもいちおう見ておこうかな・・・もしかしたら・・・万が一ってこともあるし(ドキドキ)」と平積みコーナーを見渡した。




まるで、モテない男子生徒がバレンタインデーの放課後のギリギリまで机の中や下駄箱の中にチョコがないか期待しているような、情けない心理状態である。

案の定、置いてない。当然だ。並んでいるのは著名な作家や芸能人の書籍ばかり。一瞬でも期待した自分を呪った。



「…さて、帰るか」と顔を上げたとき、信じられん光景が目に飛び込んできた。



Ikkiuchi





書籍をPRするPOPとともに、ずらりとコーナー展開されていたのである。しかも、当時話題沸騰中だった「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」の真横でだ。




自分の執筆した作品が、大手書籍店の一等地に並んでいるのを見たときは、武者震いするほど感激した。



オレサマはこの光景を、一生忘れないだろう。




Biri



あれ?重版出来!を紹介するつもりが、いつの間にか自分の苦労(自慢)話になっていた。たいへん申し訳ない。




何が言いたいかというと、書籍を作り、世の中の方々に受け入れていただくために最大限の努力をする登場人物らの目線が理解できるので、ものすごく感情移入してしまうのだ。


とくに第3巻の198ページ、幾多の苦労を乗り越えてマンガ家デビューを果たした青年が、念願の単行本を初めて出せたとき、実際の書店に出向いて、自分の作品が並んでいるのを目撃して涙ぐむシーンが描かれている。




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ボクはこの光景を一生忘れない





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このセリフは胸にグサッと刺さった。「おまいはオレか」と思った。


通勤電車の中でこのページにたどり着いたときは、年甲斐もなく目頭が熱くなり、目から汗がこぼれそうになったので、あくびのフリで必死にごまかした。



2015年1月時点で4巻まで発売されているが、そんな理由もあって、個人的に一番好きな展開はこの第3巻(笑)。




人物描写もしっかりしており、いろんな立場の人が登場する。



うまくいく人ばかりではない。デビューがかなわず、夢を捨てて田舎に戻って家業を継ぐアラサーのアシスタント。私利私欲のためにマンガ家の卵を利用する編集者、ものすごい才能を秘めているけれどあと一歩のところで連載にこぎつけられない若いアシスタント。


主人公は、新社会人の女の子。経験の少なさを、圧倒的情熱と行動力でカバーしつつ成長する主人公編集者の黒沢心(くろさわこころ)も可愛らしい。自分の娘には、彼女のように仕事に取りくむ女性になってほしいと願っている。



というわけで、「重版出来!」は、老若男女問わず、胸を張ってオススメできる作品だ。




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なお、スピリッツのサイトで、重版出来!の1話が無料で読めるよ!


Juuhan





重版出来! コミック 1-4巻セット




※オクサマもハマってしまった(笑)。




社会人なら業界を問わず共感するだろうし、学生さんであれば、働くことってこんなこと、働くって苦労もあるけど、達成感は学生時代の比ではないこと、がよーくわかるよ。


第5巻は2015年3月発売予定とのことで、発売日が待ち遠しい。