ロードバイクに乗っているとき、脳裏の片隅に常にあるのは「事故の可能性」。そして「ケガのリスク」。これはプロであろうが、ホビーライダーであろうが同じ。むしろ、スキルに乏しい後者のほうがよりその可能性は高いかもしれない。

過去10数回以上、「自転車事故コンピレーション」として、国内外の自転車事故動画を集めてまとめて記事にする、ということを続けているのも、事故は対岸の火事ではなく、誰にもいつでも起こり得る出来事であるということを伝えたいから。(&自分への戒めと警告でもある)

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その心がけのおかげか、自分はこれまで事故には一度も遭っていない。今後もそうあり続けたいものだが、事故の可能性は常にある。

自転車で家を出るときは、「もし事故で自分が今日死んでしまったら、家族と出かけ際に交わした言葉が最後の言葉になるのか…」と考えてしまうのはサイクリストあるあるなのではなかろうか。心配性が過ぎるような気もするが、その思考の癖はずっと抜けない。

さて、ということで事故は等しく誰にでも起きる。自転車による事故では、具体的にどの部位にどんなケガを負いやすいのか?その症状や治療の方法はどんなものか?を知っておいて損はない。

Global Cycling Network で「ホビーライダーも知っておきたい「プロサイクリストが遭いやすいケガ、典型的な5パターン」とその治療法について(5 Most Common Injuries In Pro Cycling & How They're Treated)」という動画がアップされていて、とても勉強になったので翻訳してお届けしたい。



取材に答えてくれたのは、EF Education First Drapac p/b Cannondale のチームドクター、Kevin Sprouse さん。

ケビンさんは、「何をもってして”よく発生する”と定義するかは難しいので、個人的によく見かける話をさせてもらいますね」と断りを入れて話してくれた。よって、以下に5つ挙げたものはランキングではなく、順不同である。

目次


プロサイクリストが遭いやすいケガ その1 【Road Rash(アスファルトでの擦りむき傷)】

いわゆる、皮膚がアスファルトによってズル剥けしてしまうやつ。考えただけで鳥肌が立つ。プロ選手の間では、「そんなのケガのうちに入らん」と笑われることもあるそうだ。が、痛いし、ジクジクして不快だし、治るのにも地味に時間がかかる。

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そんなときにケビンさんが使うのは、医療バンデージ。ドラッグストアでも扱っている商品で、長いレース中に切らすと買いに走ることもあるそうな。

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傷口にくっつかないよう表面加工がされたガーゼで、そこに抗生物質軟膏を塗ってから貼り付ける。

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粘着テープで皮膚に付着させるのだが、それだけだと走っている途中に剥がれてしまうので、ネットをかぶせる。とくに膝、肘など稼働する場所に使うことが多い。

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今説明したものはドラッグストアに普通に売っているものばかりで、医療従事者でなければ買えない or 使えないものではない。

プロサイクリストが遭いやすいケガ その 2 【Clavicle Fractures(鎖骨骨折)】

鎖骨を折ってしまうのは、サイクリスト事故あるある。なぜあるあるなのかというと、落車の仕方に関係があって、通常は「真っすぐに放り出される」ように落車することは少ない。

衝突を避けようとしたり、障害物を回避しようとしてどうしてもハンドルをねじることになる。するとホイールが斜めになり、体は斜め方向に放り出されることに。落車の瞬間、人間の反射で腕でかばおうとしてしまう。

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/説明するケビンさん(左)\

腕が受けた衝撃は、手のひら、腕の骨を伝わり、S字の形状をした鎖骨に伝わる。もっとも弱い骨である鎖骨がウィークポイントとなって折れてしまうのだ。(逆に言うと、鎖骨が衝撃吸収してくれた結果とも言える)

鎖骨は・・・というか、あらゆる骨はトレーニングで鍛えようがなく、プロであろうがなかろうが等しく折ってしまう。もちろん、病院で手当てを受けねばならない。

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鎖骨骨折の治療には、手術をしない「保存式」と、手術して金属プレートで補強する「プレート式」がある。前者は切開しなくて済むが、治癒に時間がかかるのと、骨がきれいにくっつきにくい。反面、手術すれば比較的すみやかに日常生活に復帰できるし、骨もきれいにつくが、1年後くらいに除去の再手術を受けねばならない。どっちにもメリット、デメリットはある。

以前、産経サイクリストで書かせていただいた連載、『私の落車』でも、鎖骨を折った男性の事故の経緯や治療に要した時間、日常生活での不便さを紹介した。合わせてお読みいただきたい。

飛んできたコンビニ袋をつかもうとして車に衝突 鎖骨にプレートを入れて1年を過ごす(産経サイクリスト)  

ツール・ド・フランスでは、各ステージのゴール地点にエックス線検査機が用意されている。これは非常に珍しいことで、通常のレースではそこまでの準備はなされない。

「用意されるのはツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアだけ」と語っていたが、日本国内はどうなのだろう?国内のトップレベルのレースでそこまで事務局が準備を整えられるのか…というと、たぶん整えられていないかなと。救急車を配備しておく、くらいはしているとは思うけど。

骨折の疑いがあっても、検査機がないと選手がかわいそう。場所によっては病院にだとりつくまでに何時間も待たされることになる。

ちなみにツール・ド・フランスの各チームは超音波デバイスを持っており、簡易的に骨折の有無を確認できる。

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デバイス表面にゲルを塗り、患部に当てるとワイヤーにつないだタブレットに画像が投影され、骨折していればはっきり目視で確認できる。

プロサイクリストが遭いやすいケガ その 3 【Wrist injuries(手首のケガ)】

鎖骨だけでなく、手と手首もケガをしやすい場所だ。橈骨(とうこつ: radius)は手首と肘の間の腕の骨の1本で、親指につながっていくほうのヤツ。落車でもっとも傷めやすい箇所のひとつである。

舟状骨(scaphoid)も同様に傷つけやすい。この骨は手関節にある8つの手根骨のひとつで母指(親指)側にあり、手根骨の中でも重要なもの。船底のような彎曲をしているので舟状骨と呼ばれる。

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/このへんの窪みにあります\

なかなか治りにくい箇所でもあり、小さな破片が残ってしまうこともある。その場合は手術で除去することも。

プロサイクリストが遭いやすいケガ その 4 【Knee injuries(膝のケガ)】

医者であるケビンさんの経験から言うと、

膝は落車で傷めることもあるが、それより多いのは単純にオーバートレーニングによるもの。もしくはポジションが合っていなくて、膝に負荷をかけてしまった場合に起きる。

とのこと。

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走り過ぎて痛めるのはまだわかるとして、プロ選手がポジションがずれるとか、ありえないっしょ?メカニックがいて万全の体勢だし、違和感あったらマッハで気付くんじゃねーの?って思ったが、そうでもないらしい。

治療方法うんぬんを論じる前に、まず行うのは原因の究明。膝に着目するのではなく、ペダリングの動きを確認する。

  • 足の動きはスムーズか?
  • シューズはフィットしているか?
  • クリートの種類を変えてはいないか?
  • サドルの高さをいじっていないか?

何もいじった記憶がなくても、何かの拍子でシートポストがいじられ、いつのまにか1センチ下がってしまってた…ということは稀にだがあるらしい。それに気づかずに乗ってトレーニングし、「なんか膝が痛い」ってなるわけ。グランツールに出場するレベル選手でも、そんなことがあるんだってちょっと驚きだった。

というわけで、膝の治療をするには、まずは膝から離れ、「何が膝に負荷をかけているのか?」と根本原因を特定するのが先決になるそうな。

これは非常に示唆に富んでいて、人間は体が痛くなったらその痛い部位に何か問題があると考えやすい。腰痛が典型的で、腰が痛いときって腰そのものよりもむしろ姿勢が崩れていたり、ハムストリングスの柔軟性が欠けているせいで引き起こされたりする。 

プロサイクリストが遭いやすいケガ その 5 【Concussion(脳震盪)】

選手の命にもかかわることなので、ケビンさんもかなり神経質になるのが脳震盪。年間を通じて脳震盪のシーンには多数でくわすとのこと。

頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、目のかすみが出ることもあれば、ひどいケースでは記憶の消失、ろれつが回らない、呼吸・脈拍不整などが起きることもある。

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脳震盪の診断は難しく、医者の主観に左右される。(骨折のように)エックス線で何かが現れるわけではないし、外傷もなければ、血液検査をすれば発見わけでもない。

微妙な判断を即断で求められることもあって、選手が頭を打って脳震盪は起こしていないっぽいけどレースを続行させてよいか、それとも棄権させるか?激しく迷うこともあって、結論は「迷ったら棄権させる」だ。

ただ、棄権させた選手が後にピンピンしていたら、「後悔で頭を掻きむしって死にたくなる」とも。

でも、「無理して続行させて取り返しのつかない事態を招くよりは、大事をとったほうがいい」というポリシー。

これは言っておきたいんだが、脳震盪の症状はすぐには表面化しないことも多い。落車して頭を打ち、すぐさま症状が出ることはむしろ少ないくらいだ。

落車後しばらくは元気であっても、その後悪化することは十分にありえる。選手の身体を慮った、正しいやり方だと思う。

以上、Global Cycling Network の「ホビーライダーも知っておきたい「プロサイクリストが遭いやすいケガ、典型的な5パターン」とその治療法について(5 Most Common Injuries In Pro Cycling & How They're Treated)」のご紹介でした。


皆様がケガと事故に無縁で、安全で楽しいサイクリングをお楽しみいただける助けになればこれ幸いです。( ◠‿◠ )

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