2015年、ディスクブレーキが解禁されるというニュースが自転車界に流れた。

UCIがロードレースでのディスクブレーキ解禁へ 今年8、9月のレースでテストを実施 (産経サイクリスト)という記事を読んで、「おお、ついにロードレースにもディスクブレーキの波が!」と感じた方も多いだろうと思う。


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※ディスクブレーキは、こんなかんじにローターがむき出し


「危ないんじゃないの?」

「大丈夫なんじゃないの?」

「そもそも、ロードにディスクの制動力って不要じゃね?」


と、いろんな意見が自分の周囲でも交わされていた。



で、パリ・ルーベでのあの事件である。


Ventoso confirms disc brakes sliced his leg open, calls for action on ‘giant knives’」(ディスクブレーキで脚を切ったベントスが、「ディスクブレーキは巨大なナイフ」と警告)

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画像引用元は上記の元記事



プロロードレースで誰が勝った&負けたということにはあまり関心がない自分ではあるが、そんな自分でさえ目をそらせられない事件がパリ・ルーベで起きた。


モビスターに所属するフラン・ベントソという選手が、ディスクブレーキに脚を切られて大怪我したとのこと。上記記事を翻訳してご紹介する。


ベントソ自身が書いたレターでは、「ディスクブレーキをプロロードレースに許可することを、再考して欲しい」とハッキリ明言されていた。2チームがパリ・ルーベでディスクブレーキを採用した。各チームの8人が前後にディスクローターを装着して走ったわけで、8人×2チーム=16人。1台に2個ローターがあるので、合計32個のローターがこのレースでは使われていたことになる。


ベントソは、クラッシュの際に落車しなかった。ただ、脚が別の選手のバイクが脚に当たっただけ。ベントソは痛みを感じなかったため、そのままバイクに乗り続けていたのだが、足を見て驚いた。


出血はさほどでもなかったが、脛骨の骨膜が避けて、露出していたのがハッキリと見えた」と語っている。この文章を書いているだけで、自分自身が顔をしかめてしまいそうになる……。

※傷の深刻さを画像で確認したい方は、上記元記事をクリックしてください。


傷を見たベントソはショックを受け、バイクをすぐさま降り、立っていることは当然できず、草の上で横になって救急車の到着を待った。そして、ディスクブレーキが原因となる、別の事故も起きてしまう。


「僕の15キロ後方で、エティックスクイックステップのニコラス・マエズも僕の乗っていた救急車に乗ってきた。彼は膝を激しく怪我していた。別のバイクのディスクローターにやられてしまったんだ」(ベントソ)


ひとつ、想像してしまうことは、「もしも198名の全選手がディスクブレーキ(396個)で走ってしまったら…ガムシャラにポジション争いをしたら…いったいどんなことが起きてしまうのか」ということ。


「ディスクブレーキは、二度とプロロードレースで使われるべきではない。すくなくとも、今はその時期ではない。僕はいまだかつて、キャリパーブレーキでパワー不足を感じている選手に会ったことはないし、フルパワーでブレーキングしてタイヤがスキッドしてしまう選手にもお目にかかったことはない。キャリパーブレーキで十分なんだ。であれば、なぜ我々はディスクブレーキを使わねばならないのか?」(ベントソ)


おなじくベントソは、ディスクブレーキが交じることでニュートラルサービスが、「複数のホイールを用意せねばならず、混乱する」とも指摘している。だが、最大の懸念は選手の安全の確保だ。


「ディスクローターは、巨大なナイフと表現してもいい。いや、ナタと呼んでもいいだろう。僕の脚が切断されなかっただけ、まだ良かったかもしれない。頸静脈や大腿動脈を切られてしまったらどうなると思う?想像するだけで恐ろしいだろう?」(ベントソ)


ベントソは、「危険因子は、重大な問題が発生するまで手付かずのまま放置されてしまうことが恐ろしい」と警告する形でレターを締めくくっている。ベントソは、他の選手に対して「この問題をただ見守るのではなく、積極的に行動を起こして欲しい」と呼びかけた。



以下、さらにベントソの言葉。


「僕はプロサイクリストとして13年のキャリアがある。そしてユーズ年代を含めると、プロになるため13年を費やしてきた。つまり、26年間、バイクトレーニングを毎日続けてきたことになる」


「サイクリングは僕の情熱であり、もっとも愛するものだ。6歳から始めて、今もその気持は変わらない。そして、僕はサイクリストで在り続けたい。夢を職業にできて、こんなに幸せなことはない」


「他のスポーツ同様、サイクリングも近年、機材とアパレルの進化はめざましい。最初は鉄のフレームがアルミ、カーボンと進化した。カーボンは求める剛性を持ちつつ、軽さも追求している。ビンディングシステムも使いやすくなり、効率的であり、しかも安全。ヘルメットは軽く、しかもセキュアになり、見た目も美しい」


「コンポーネントのギアの進化も目を見張る。僕の最初のバイクは、フロントギアが1枚で、リアは三段しかなかった。それが今ではフロント2枚、もしくは3枚にまで増え、なんとリアスプロケットは11枚もある」


「バイク機材の進化はまだこれからも続くのは間違いない。テクノロジーの進化は、トライアンドエラーの繰り返しだ。ここまで来るのは、カンタンなことではなかっただろう」


「今でも覚えているが、スプロケットが10枚になったこと、チェーンがよく切れてしまったものだった。なぜなら、当時はまだ素材の強度が必要なレベルになかったからだ。電動化のシフトにも触れなければならない。初めて電動シフターに触ったとき、僕たちは皆衝撃を受け、こう結論づけた」


「“電動化はまだ早い。ちゃんと動作するかどうかも不安だ”と。バッテリーをフレームに装着することにも抵抗があった。で、いまでは”電動シフターはなくてはならないメカ”にあってしまっている」


「2年前、シクロクロスバイクにディスクブレーキが使われるようになった。そして、”そのうち、ロードレースの世界でもテストされるに違いない”というウワサが流れるようになった」


「このことだけは、はっきり言っておきたい。シクロクロスやアマチュアのツーリングにディスクブレーキが使われることには、何の問題もないと思っている。ただし、ロードレースだけは別だ」


「ただ運が悪かっただけ?僕はそうは思わない。物事は、何か問題が起きてから出ないと対処されないものだ。他の選手には、この事故を対岸の火事だと思ってほしくない。これは誰にだっておきてしまう可能性がある」


「プロロード選手であれば、ディスクブレーキの餌食になってしまう可能性が常にある。他人がどうしろこうしろと指示してくることはあるが、我々選手には『選択する権利があり、その力を行使すべき』なんだ。明日、ディスクブレーキで怪我をするのはあなたかもしれないからだ」


その後、UCIはロードレースのディスクブレーキ導入テストを一時中止したそうだ。