自分は自転車レース観戦にはあまり関心がないので、TVもネット動画も見ない。誰が移籍したとか、どのチームがなんのレースで優勝したかってニュースもスルーしている。

ただ、チームの裏側がどうなっているのかってことには人一倍興味が湧く。選手が食べているもの、メカニックの活動、サポートカーの内部、選手専用のカスタマイズ…などは前のめりになってしまう。

スポーツとして楽しむのではなく、ドキュメンタリー側面だけ切り取って味わっているのかも。

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そういえば映画でも「メイキングシーン」を本作よりもがっついて観る性格で、監督や役者がどういう想いでこのシーンを撮ったのか、苦労した点はなんだったのかってのはぁはぁとヨダレを垂らしながら味わうタイプ。きっとそういう性癖なのでしょう。

で、Global Cycling Network で面白かったのが「Peter Sagan's Team's Bike Preparation For Paris - Roubaix | Inside BORA-Hansgrohe(ボーラ・ハンスグローエのパリ〜ルーべ専用マシンの準備の様子)」という動画。

ボッコボコの石畳を高速で走るという鬼畜の所業のようなレースにおいて、いったいどうやって衝撃対策を施しているのかが謎だった。ふつうに走ったら尻と手が死ぬだろ…。

BORA-Hansgrohe(ボーラ・ハンスグローエ)に機材供給するシマノの中の人にもインタビューしつつ、詳しく解き明かしてくれていた。



目次


パリ〜ルーベ (Paris - Roubaix) ってどんなレース?

フランスのパリからルーベまで、およそ260Kmを走る自転車プロロードレース。基本はフラットなのだが途中に54km もの石畳コースが入ってくる。

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まず1日で260キロ走るって時点でめまいがするが、石畳区間の長さもヤバイ。手と腕がどうにかなりそう。

ウィキペディアの情報を箇条書きでまとめると、、、

  • 1896年から行われているクラシックレース
  • ワンデーレースの中では最も格式あるレースの一つ
  • 「クラシックの女王」と呼ばれる
  • コース自体は平坦だが、総延長で54Kmの未舗装の道路がある
  • 握りこぶし大の石が敷き詰められたパヴェ(石畳)がそれ
  • 強烈な振動で選手を苦しるだけでなく、鋭い角や段差でパンクや落車を発生させる
  • 雨天時ははじけ飛ぶ泥のせいで泥まみれとなる
  • かといって晴れていると凄まじい土埃が巻き上がり、視界不良と呼吸困難を引き起こす
  • 変速機やチェーンにも泥が降り注ぐため、メカトラブルも発生しやすい
  • 4月中旬の日曜日に開催されることから「地獄の日曜日」とも呼ばれる

パリ〜ルーベ (Paris - Roubaix) ではどんなバイクを使うのか?

バイクはスペシャライズドのルーベ(Roubaix)でヘッドにFuture Shock 2.0という衝撃吸収用のサスペンションが備わる。

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しかも2019年モデルにはサスペンション調整ノブがあってオンオフの切り替えができ、石畳区間でのみオンにして使うことができる。

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何気なくスペシャライズドのサイトを見てみたが、S-Works Roubaix - Sagan Collectionって完成車で130万円以上するのね…。

パリ〜ルーベ (Paris - Roubaix) ではプロ専用のインナーリングが備わるのはなぜ?(シマノの中の人が回答)

不思議なことに、インナーのチェーンリングが通常の39Tではなく、42Tもしくは44Tに変更されている。シマノはワールドチームのうち7つのサプライヤーなのだが、パリ〜ルーベでもっとも好まれるのは55-44Tの組み合わせらしい。

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通常、市販されているのは39Tで、それよりも大きなインナーリングがついている。なぜインナーリングが大型のものをパリ〜ルーベのために提供しているのか?

理由は、フラット区間で選手は高速で走りたいのでこの組み合わせになっっているとのこと。シマノ担当者によると、「あえて市販化はしていない」と語っている。

なぜなら11-28T(or 11-30T)のスプロケットを55-44Tと組み合わせてしまうと、多くのギア比がかぶってしまうのだ。一般消費者にとっては多くのギア比を選べたほうがよいので、あえて44Tを市販していない。

アウターリングの内側に厚みをもたせるパーツが装着されていて、それがインナーリングの間にチェーンが落ちるのを防いでいる。

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なお、これは完全にプロ仕様で、シマノがサポートするチームにのみ提供しているスペシャルパーツだ。

パリ〜ルーベ (Paris - Roubaix) 出場選手に共通している点

ハンドルがエアロではなく、丸型なのが特長。パリ〜ルーベは高速レースにもかかわらず、エアロハンドルにする選手がいないとのこと。

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理由は丸型のほうが地面からの衝撃を吸収してくれるから。平べったいエアロバーのほうが振動を吸収しやすいのかな?と思いきや、そうではないらしい。

当然、サガンも丸型ハンドルをパリ〜ルーベでは使っている。

Di2のシフターはブラケット以外にもあって、ハンドルバーに2個(シフトダウンとシフトアップ)用意されている。ハンドルを握ったまま手を移動させることなく変速が可能にしてある。

なぜシマノのRXリアディレイラーをパリ〜ルーベ (Paris - Roubaix) で使わないのか?

さぞかし衝撃の激しいパリ~ルーベなのだから、チェーン落ちしないようアルテグラRXのリアディレイラーを使えばいいし、そうしていると思ったのだが答えはNO。

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いちおう説明しておくと、アルテグラRXはチェーンスタビライジング技術をロードサイクリングに応用し、厳しい地形でのスムーズで正確な変速操作を実現してくれているものだ。


シマノ公式サイトを見ても、グラベルでの用途を想定しているようだし、パリ~ルーベで使ってもなんの問題もないどころか、むしろ使うべきなのでは?と疑問に思うだろう。

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シマノの回答としては。

同じくサポートしているトレックでアルテグラRXを実験投入したんだけど、「ほぼ大差ない」という結果だった。アルテグラRXが適しているのはパリ~ルーベの石畳以上の荒れたコンディションだ。なので通常のリアディレイラー(スペシャライズドはデュラエース)が石畳でも問題なく使えるという結論になった。

である。

これは耳寄りな情報だ。パリ~ルーベで問題ないってことは、我々ホビーサイクリストはまったくもって問題ないってことになる。逆に言うと、アルテグラRXっていったいどんだけハードはコンディションで使うんだろう?とは思った。

最近のトレンド「ワイドリム化」は衝撃吸収という意味ではプラスの効果

以前は

  • バーテープを二重に巻く
  • バーテープの下にジェルを敷く

といった石畳専用の衝撃吸収の工夫がそこかしこに見られたが、最近はそんなことをするチームが減ってきた。理由はタイヤのワイド化とそれに伴うクッション性の向上。

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パリ~ルーベではリムハイトも50mm~60mm とかなり高めのがチョイスされている。(これまでは低めのリムハイトのほうが衝撃吸収に適し、それを好む選手が多かったのだが)

もうひとつトレンドとして、石畳が多いとはいえフラットなコースレイアウトなので高速で走ることになるので「バイクのエアロ化」が進んでいる。すべてのチームがリムハイト50mm 以上のホイールを採用しているのは、パリ〜ルーベは空気抵抗との戦いだとわかっているから。

なお参考までに、風洞実験の結果、S-Works RoubaixはTarmac SL6よりも高いエアロ性能を叩き出している。

フロントフォークにはスルーアクスルのレバーがない

つまり、ボルトで固定されているので手動で開けることは不可能。これも空気抵抗軽減のための工夫のひとつ。

ではどうやってホイール脱着をするのか?

ボーラ・ハンスグローエ(BORA-Hansgrohe)のメカニックは、フォーミュラ・ワンのピットメカニックよろしく、電動ドリルを使う。なんと、クイックリリースレバーのホイールを手動で交換するより短時間で交換できてしまうのだとか。

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クイックリリースの場合、フォークにホイール脱着防止のノッチがついており、それに引っかからないように取替作業をせねばならないが、スルーアクスルなら「ボルト外す→ホイールを抜く→ホイールを入れる→ボルトを締める(完了)」となる。

その様子は動画内では紹介されていなかった。ぜひとも見てみたいものだ。

パリ〜ルーベ (Paris - Roubaix) 専用のマシンを準備&整備するメカニックの仕事量は膨大

そもそもパリ〜ルーベに投入されるフロントサスペンション付きバイクは年間でほとんど使われることがない。ツール・ド・フランスでも1ステージに使われるかどうか。

そんな限定仕様のバイクをたった1日のレースのために準備するのは本当に大変なことだろう。

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ちなみに全選手には予備バイクも用意されており、予備バイクには「2(セカンド)」のプリントがヘッドチューブに付けられている。 他の選手の予備は1台だけだが、ピーター・サガンにはなんと予備だけで3台も用意されているそうな。さすがエースは違う。

それにしてもメカニックの方々、本当にお疲れ様です…。


以上、「Peter Sagan's Team's Bike Preparation For Paris - Roubaix | Inside BORA-Hansgrohe(ボーラ・ハンスグローエのパリ〜ルーべ専用マシンの準備の様子)」という動画の翻訳紹介でした(^^)


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